大好きなダンスを続けてこられたのは「根底に自分を信じる心があったから」。
ダンス歴30年、子どもの頃からさまざまなジャンルのダンスをしてきたMasha Amaura(マシャ・アモーラ)さんが、36歳のときに出会ったのがインド舞踊です。
ジャズダンスやミュージカル、ブラジリアンダンスなど、多くのダンスを経験してきた末にたどり着いたインド舞踊の魅力とは。そして、つらいときや苦しいとき、どんなときでもダンスを続けてこられた理由とは。Mashaさんに聞きました。
インドでベビーシッターのようなことをする
「Masha、どこにいるの!子どもが熱出したから、早く帰ってきて!」
インドに半年間滞在していたとき、散歩の途中で住んでいた家のオーナーから電話で呼び出された。
「私、インドにダンスを学びに来たのに、なんでベビーシッターみたいなことをしてるんだろう?って思いました」
高校卒業と同時に東京に出たMashaさんは、働きながらダンスを学んでいた。ジャズダンスやモダンバレエ、シアターダンスなど西洋のダンスから入ったMashaさんだったが、次第にアフリカンやブラジリアンダンスなど、民族系のダンスをするようになっていく。
そんな中で、インドのボリウッドダンス(インド映画の中で踊られているダンス)のことを知り、他のダンスにはない表情や表現力に惹かれ、学び始めた。
そして、インド人と結婚する友人の結婚式をきっかけにインドへ。結婚式に参加した後は、ダンスのレッスンを受けたいと思っていたが、思いもよらぬ方向へ進んだ。滞在していた家のオーナーに子どもが生まれ、なぜかベビーシッターのようなことをさせられたのだ。
「なにも決めずにインドに行ったから、インドに着いてからダンスの先生を探そうと思っていました。でも、赤ちゃんのお世話をする毎日で、先生も探せなかったんです」
ダンスを学びにインドに来たはずなのに、なにをしているんだろう?とも思った。しかし、このときの経験がダンスの役に立っていたと、後に気づくことになる。
「インドのダンスは人々の日常を描くことも多いものです。赤ちゃんをオイルでマッサージしたり、命名式のプジャ(ご祈祷)をしたり、田舎から出てきたオーナーのお母さんと一緒にプジャの準備でお団子を作ったり……インド人の生活習慣や子育ての仕方など、多くのことを経験できました。どっぷりインドの暮らしを体験できたことが、その後のダンスに役立ったと感じています。最初はダンスができなくてもどかしかったけど、今は貴重な経験ができてラッキーだったと思っています」
インドに「懐かしさ」を感じる
しばらくしてダンスレッスンも受け始めたMashaさんだが、インドで生活する中で「懐かしさ」を感じたという。
もともと「空気を読むのは苦手」だったMashaさん。一人っ子だったこともあり、周りから「わがまま」と言われたこともあった。だから周りに迷惑をかけまいと、自分を抑えて、一生懸命空気を読もうとがんばってきた。
しかしインドに来てみると、どうだろう。インド人は「空気を読む」なんてことはしないどころか「他人に迷惑をかけてもいい」と考えているように見えた。正確に言うと「迷惑をかけ合って生きるものなのだから、助け合っていこう」という雰囲気がある。
また、インドにいると日本では抑えていた感情が爆発することもあった。
あるとき、仲良くなったインド人の女友達と大げんかをした。ドアを引っ張り合って、開けたり閉めたりしながら「嫌だー!来るなー!」と大声を張り上げた。Mashaさんは、このとき38歳。大の大人がこんな子どもみたいなけんかをするなんて思ってもいなかった。しかし、けんかが終わるとケロッとして元通り。むしろ「お互いのこと知れたからよかったね」なんて言っている。
「私はこんなインドにどこか『懐かしさ』を感じました。インド人の距離感の近さとか、お節介さとか。別に日本の田舎育ちでもないし、自分で経験したわけでもないのに不思議なんですが」
また、Mashaさんがインドのダンスに惹かれた理由もここにあるという。
「インドのダンスの魅力は、表情や表現力が素晴らしいことはもちろんですが、日本の昔を見ているような、どこか懐かしいような感覚があります。インドには、昔の日本とも共通するものがあったんだと思います」
自分を信じる絶対的な感覚
子どもの頃から今に至るまで、ずっと大好きなダンスを続けてきたMashaさんに「好きなことを続けられる理由」を聞いた。
「私は昔から、どこか根底で自分を信じていたようなところがあります。『私は絶対大丈夫』という根拠のない自信が奥底にあったんです。それはナルシストってわけじゃなくて、ダメな自分も全部含めて認めているような。だから、ダンスを選んだ自分を肯定できていたんです」
「自分を肯定していた」ことを象徴するのが、高校時代のエピソードだ。
高校卒業を控えたとき、進学校に通っていたMashaさんは先生から大学進学をすすめられていた。でも大学に行くお金もないし、大学に行って勉強したいことも特にない。なによりダンスを続けたかったが、先生は納得しない。校内放送で頻繁に呼び出され、「借金してでもいいから大学に行け」と言われた。
しまいには「お前の体型でダンスなんてできると思うのか」とまで言われた。ちょうど思春期で、周りを気にしすぎるようになってしまい、ストレスもあったのか、太っていた時期だったのだ。
しかし、Mashaさんは自分を曲げなかった。
「先生だったらそういう選択をするかもしれませんけど、私はしません。やりたいことをやります」
そう言って、東京へ出てダンスを続ける選択をした。
ダンスを続けていても、当然楽しいばかりじゃなくつらいこともあった。ダンスは好きだけど、どのジャンルをやるべきかわからない、これでいいのだろうか、とずっと悩み続けた。それでも、根底には「私は絶対大丈夫。必ず自分に合った道を選べる」という気持ちがあった。
時がたち、インドのダンスに導かれたMashaさんは、インド人との共通点を感じている。
インド人は自分のことが大好きな人が多い。スマホの待ち受け画面を自分の写真にしている人も多いのだが、Mashaさんも昔やっていたことがあるそうだ。
「全然ナルシストってわけじゃなくて、『あ、このときの私のエネルギーがすごく好き。このときのイメージでいたい』という感覚で、自分の写真を待ち受けにしていました。でも、日本だと周りから引かれちゃうんですよね(笑)」
しかし、インド人も同じことをしているのを見て「そうだよね!その感覚わかる!」と共感できた。インドに「懐かしさ」を感じ、インド人と似た部分も持っていたMashaさんがインドのダンスに導かれたのは、自然なことだったのかもしれない。
インド創作舞踊のコンサート
インドのダンスに情熱を注ぐMashaさんから、「自分を信じる力」の強さを感じました。
Mashaさんは「自分が一番の理解者」とも言っていて、その感覚はどんな人にとっても大事なものだと思います。
そんなMashaさんのコンサートが8/26(土)に愛知県春日井市にて行われます。北インド古典音楽とインド創作舞踊の2部構成で、Mashaさんがインドで感じ、見てきたものが反映されている舞台です。
Colours of India – 彩られしインド –
■日時
2023年8月26日(土)
■場所
文化フォーラム春日井 視聴覚ホール(愛知県春日井市鳥居松町5- 44)
■時間
16:30開場 17:00開演(16:00より受付開始)
■チケット
前売 4,000円 当日 4,500円(全自由席)小学生以下無料
■ご予約・お問合せ
RasaMasala(ラサマサラ)rasamasala.arts@gmail.com
または、出演者まで
Masha Amaura プロフィール
ジャズダンス、民族舞踊各種、芝居、ミュージカルなどを経験後、ボリウッドダンス・北インド古典舞踊カタックダンスに出会う。日本人離れした表現力豊かな舞踊に定評があり、様々なミュージシャンとのコラボレーションや、表現力を主としたオリジナル作品も創る。ダンスクラスやコンサートの企画だけではなく、各地でワークショップを開催する講師・振付師でもあり、コンサートやヨガクラスなどでインドの楽器「タンプーラ」を伴奏するなど幅広く活動している。
公式HP:https://mashaamaura.com/
Instagram:https://www.instagram.com/mashaamaura/
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