「merere」のあやかさんは、インドのボディアート「メヘンディ」とローチョコレート(以下、ローチョコ)の二毛作で活動するアーティスト。メヘンディの模様はお守り的な意味合いもありつつ「自己と向き合うツールにしてほしい」とも語ります。
心身の体調を崩したことがきっかけで、ヨガや精神世界に興味を持ち、インドへ向かったあやかさん。現在の活動であるメヘンディ、ローチョコ両方に「潜在意識」や「価値」というキーワードが浮かびます。
メヘンディやローチョコが、なぜ潜在意識につながるのか?アートが持つ力とはなにか?あやかさんに聞きました。
「今インドに行かないと一生行けない気がする」
あやかさんがメヘンディに出会ったきっかけは高校時代にさかのぼる。「もともと自己肯定感が低かった」というあやかさんだが、通っていた女子校の影響もあったのか「容姿を変えないと認めてもらえない」と思い込んでいた。そこでダイエットから、だんだんと拒食症のような症状になり、心身を壊していった。
それからマクロビオティックやヨガといった心と体のことに興味を持ち始め、実践していく。そしてヨガをしていたことから、次第にインドへの憧れがつのっていった。とはいえ親の反対もあり、なかなかインドへ行くチャンスは訪れない。
しかし結婚したときに「これでやっと自由になれる!」と思ったという。
「結婚したから、もう自由だ!と思いました。もう嫁いで家を出たんだから、親の管轄外になるでしょ、と思ったんです(笑)」
そして結婚後すぐにチャンスが訪れる。友人が知り合った、インドでジュエリーの買い付けをしている人が、一緒にインドに行かないかと誘ってくれたのだ。
しかし今度は夫が大反対。「新婚なのに、知らない人達とインドに行くの⁉」と信じられないといった様子だ。
「もしかしたら、これがはじめての夫婦喧嘩だったかもしれません(笑)でも、パッケージツアーでもなくインドに行けるなんて、こんなチャンスはなかなかありません。それに、この時インドに行かなかったら、一生行けないような気がしたんです」
こうして夫の反対も押し切り、はじめてのインドへ旅立った。
エネルギッシュなインド メヘンディとの出会い
ジュエリーの買い付けについて行った先は、インド北部のラジャスタン州。6~7人で約10日間、ジョードプルやジャイサルメール、宝石で有名なジャイプールをまわった。
ジュエリーや生地の買い付けについて行ったのはもちろん、インド人の家庭で料理教室をしてもらったり、建築物や廃墟を見に行ったりもした。
インドに降り立った瞬間に感じた、なんとも言い表せない「インドの匂い」。言葉では伝えづらいインド独特のエネルギッシュさ。そういったものに喜びを感じた。
「私が求めていたのはこれだ!って思いましたね。写真を振り返って見てみると、すごくいい顔してます」
帰国後、結婚して仕事も辞めていたあやかさんは「なにかしたい」と思い、アート系のものをインターネットで探した。その時に目に止まったのがメヘンディだ。鎌倉でスクールを開いている人のホームページをたまたま見つけ、「すごくきれい!」と感動。その道に飛び込んだ。
当時住んでいた東京から鎌倉のスクールに通って、メヘンディの技術を習得した。通っている途中で転勤、妊娠してもオンラインで学び続け、今は仕事としてさまざまな人にメヘンディアートを施している。
メヘンディとは 模様の意味も
メヘンディとは、ヒンディー語で「ヘナで肌を染める・模様を描く」という意味で、「ヘナ」という植物を使ったボディアートのこと。肌や髪が染まるヘナの特性を活かし、ペースト状にしたものを肌に乗せ、模様を描く。インドだけではなく、中東やアフリカでも見られるものだ。
インドでは特に、結婚式の際に花嫁の両手足にびっしりとメヘンディを施す文化があり、「メヘンディの色が濃く出るほど嫁ぎ先で幸せになれる」と信じられている。
インドに行ったことがある人は、路上でメヘンディを施しているところを見かけたことがある人も多いだろう。インドではごく身近な文化だ。
メヘンディには魔除けの意味合いもあり、それぞれの模様には意味がある。あやかさんは、ささっと描きながら説明してくれた。
花
恋愛運、やさしさ、感謝など。
ペイズリー
健康運、なにかを充実させたいなど。
オーム
オームとは「AUM」の音のことで、インドでは「宇宙の創造の音」とも言われている。
日常はいろんなことを経験して感情が動く。
夢は感情もあるけれど、安らいでいる状態。
熟睡は夢も見ずに感情の起伏がない。
下の3つは自分でもなんとかできるかもしれない。けれど、幻を超越したところに本質がある。これは人間の顕在意識、潜在意識をすべて表したものだ。
「メヘンディだけではなく、あらゆるもののデザインや模様には人の祈りが込められていると思います。特に、インドは神様があらゆるところにいて、祈る人もたくさんいる。そして、インドはアートにあふれています。針と糸を使う刺繍も、ヘナを使うメヘンディも、全部ひっくるめてアートであり、表現であり、祈り。そういったことを少しでも意識していきたいですね」
メヘンディには安産祈願の模様もあるという。
あやかさんはスクールで通っている際、生徒同士の練習のときに安産祈願の模様を描いてもらい、その後すぐに妊娠した経験がある。アートには、そういう不思議な力もあるのかもしれない。
「デザインをただかわいいって楽しむのもいいし、意味合いを持たせてお守りのようにしてもいい。楽しみ方は人それぞれ、自由でいいと思います。メヘンディは10日前後で消えるアートだけど、ただ消えるんじゃなくて自分の中に吸い込まれていく感じがします。そういうはかなさもメヘンディの魅力かな」
自己と向き合うツールにしてほしい
あやかさんは夏はメヘンディ、冬はローチョコレートというスタイルで活動している。活動に季節性があることから、本人は「二毛作」と言って笑う。
最後に活動名である「merere」の意味について教えてくれた。
「merereはラテン語で『お菓子』の語源で、『価値を得る』という意味もあります。メヘンディもローチョコも、私が表現するツールで自分の価値を確認してほしいという思いで名付けました」
メヘンディもローチョコも、単に「かわいい」「おいしい」と言ってほしいわけではなく、自己と向き合うことに使ってほしいという思いもある。
「たとえばメヘンディを描いてもらっても『思ったのと違う』ってときも当然あると思うんです。残念だなぁ、で終わるんじゃなくて『じゃあ自分はどういうものが好きなんだろう?』って今の自分に意識を向けてほしいです。自分を深掘りするきっかけになってもらえたらと思います」
お客さんに寄り添いすぎるのではなく「自分がいいと思うものを提供したい」というあやかさん。「お互いが自立して、価値を得ることにどん欲になりたい」と、自分も相手も満たされることを追求する。
「価値を得ること」にまっすぐなあやかさんにメヘンディを描いてもらったら、あなたの中の「なにか」が刺激されるかもしれない。
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