以前の記事「西インド・カッチの刺繍がすごい!今も残る伝統の手仕事」では、カッチの刺繍について紹介しました。
しかし、カッチには刺繍以外にも多くの手仕事があります。カッチは工芸品の宝庫なのです……!
今回は、前回紹介しきれなかったカッチの魅力的な手仕事の数々を紹介します。
インドのカッチ地方 刺繍以外にもたくさんある手仕事
以前もご紹介した通り、カッチはブージという街を中心に多くの村が点在しています。その村々や民族ごとに、それぞれ特色ある工芸品を生み出しています。
一つずつ紹介していきますね。
アジュラック・ブロックプリント
「ブロックプリント」とは、木彫りの木版(はんこ)を一つ一つ手で押して染色する技法のことで、「インドの布と言えばこれ!」と言えるようなインドを代表する染色技法の一つです。
ブロックプリントはインド各地で見られますが、カッチのものは「アジュラック」といい、少し違った特徴があります。
アジュラックはペルシア語の「アズール(青)」に由来するという説と、グジャラート語の「Aje rakho(Keep it today/日々続ける)」に由来するという説があります。
アジュラックのブロックプリントは、イスラムの草花や雲、波などをモチーフとした幾何学模様が特徴で、ほぼすべて藍や茜といった天然染料で染められているのです。
このアジュラック・ブロックプリントで世界的にも有名なのがSufiyan Ismail Khatri(スフィヤン・イスマイリ・カトリ)さん。カッチのアジュラックプールという街に工房があります。
実はアジュラック・ブロックプリントは一時完全に途絶えてしまったことがあるそうですが、スフィヤンさんの祖父らの尽力により復興しました。今では、スフィヤンさんは世界中を飛び回り、またカッチの工房にも海外からデザイナーやバイヤーが多く訪れる場所となりました。
アジュラックのブロックプリントは木版を押して、染色して、乾かすという作業を繰り返します。その工程は長く、とても手間のかかるものです。
気の遠くなるような作業を経てできあがっているのが、アジュラック・ブロックプリントです。天然染料の深い色合いと、アジュラックならではの幾何学模様が本当に美しい。
工房にはショップが併設されており、一般の方でも購入できます。私も、ふらっと行って工房の見学までさせてもらえました。カッチに行ったら、絶対に訪れたい場所です。
バンダニ(Bandhani)(絞り染め)
次に「バンダニ(Bandhani)」と呼ばれる絞り染めの布を紹介します。
布を糸で縛り、絞った部分が染まらないことを活かして模様を作ります。
そう、この「絞り染め」は日本にもある染色技法ですよね。なんと、インドでも「Shibori(しぼり)」で通じるのです。
「国際絞り会議」という国際会議が世界各国で行われていて、1996年はインドのアーメダバードで開催されました。私が住んでいる愛知県は「有松絞り」で有名な土地。有松に遊びに行ったとき、工房の人は「国際会議でインドに行ったことがあるよ」とお話しされていました。私の地域ともこんなつながりがあったとは驚きです。
布を絞っている様子も見せてもらいました。絞りを行うのは女性の仕事のようです。
細い筒状のものを持ってぐるぐる手際よく巻きつけていました。写真を見ておわかりかと思いますが、めちゃくちゃ細かいですよね……
染める場所も見せていただきました。ここでは、絞りは女性、染めは男性の仕事と明確にわかれているようでした。
そして、こちらはヴィンテージコレクターの人に見せていただいた約100年前のバンダニ。細かすぎて、美しすぎてため息が出ます……
シルバーアクセサリー
カッチの少数民族の女性たちは、金属のアクセサリーを身につける習慣があります。
カッチではヴィンテージのシルバーアクセサリーを売るお店や、作っている工房もありました。
こちらはブージの街にあった小さなお店。バーナーを使ってアクセサリーを作っています。
このような型がずらっとあり、好きなものを選んで作ってもらえます。これだけで、心躍る~!
バーナーで熱し、トンカチで叩く、を繰り返していきます。
余談ですが、インドではこのように地べたで作業するスタイルが多く見られます。お世話になったあるご家庭のキッチンも床で、このような姿勢で料理をしていました。
ヴィンテージのシルバーアクセサリーもとても素敵なものがありましたが、お値段が……で、手が出ませんでした。
織物
カッチは織物も有名です。今も手織りの布を作っていて、ブジョディという村は織物で有名な場所です。
ブジョディのお店で見せていただいた布。この柄はカッチでよく見られるものです。素敵ですねぇ……
布を織っているところです。掘りごたつのように、地面に穴を空け、そこに座って大きな機織り機を動かします。
ギッタンバッタンとリズミカルに作業する職人たち。こんな手作業が今も残っているなんて、本当にすごいことですね。
こちらは布になる前の染色の様子です。糸を染めている作業が見られました。
サリーを着た女性が作業していました。手で糸を染めて、織る……その作業にうっとりして、いつまでも見ていたくなります。
カッチ周辺の村への行き方
紹介したものはブージの街なかから、ブージから出た村にあるものまでさまざま。
ちなみに、ブージからホワイトラン(塩砂漠)まで約120キロ、車で2時間以上かかります。その途中に村に寄ることもできます。
では、これら工芸品の村々にはどのように行ったらいいのでしょうか?
ローカルバス
最も安く行ける方法です。ブージのバスターミナルから各方面に向けてバスが出ていますので、トライしてみるのもいいでしょう。
しかし、もっとも難易度が高い方法とも言えます。まず、目的地に行くバスを探すのが大変。(どこ行きのバスと明確に表示されていない)加えて、何時に出発するかわからない、無事に乗れてもバスを降りた場所から結構歩かないといけないなど、なかなか大変なことも……
この荒野を一人で歩いたときは、さすがに心細かったです。
オートリキシャやタクシーを1日チャーターする
行きたい村を決めておくと、1日で効率よくまわれるのでおすすめです。
各村をまわるガイドを手配する
最初、私はこの方法で行きました。ホワイトランも含めた各村をめぐるツアーを、宿で手配してもらったのです。
ホワイトランはカッチでもっとも有名な観光地なので、このようなツアーをしてくれるところはたくさんあります。ホテルやゲストハウスで聞いてみるといいですね。
インド・カッチの手仕事がすごい!
この記事では、刺繍以外のカッチの手仕事を紹介しました。
実は、ここに紹介しきれていない工芸品もまだまだあるのですが……ひとまずは、ここまでにしておきます!
グジャラート州カッチ地方は、まだまだ知られていない地域ではありますが、工芸品や手仕事が好きな人には人気の高い場所でもあります。
日本人の中でも、カッチに布を買い付けに行って洋服を作っている人もいますよ。スフィヤンさんの工房で働く日本人女性・向井詩織さんに取材したこちらの記事「インドの伝統布に『外国人らしさ』を 現地で職人と汗流す日本人デザイナー」も読んでみてください。
カッチのこと、インドの別の場所について、疑問・質問があればお気軽にコメントくださいね♪
【参考文献】
『インド染織の現場 つくり手たちに学ぶ』上羽陽子著(臨川書店)
『CALICOのインド手仕事布案内』文・小林史恵、写真・在本彌生(小学館)
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